ドラマ撮影に遭遇
僕の職場兼自宅は東京都中央区にあって、すぐ裏に隅田川が流れている。その川辺で週末にドラマ撮影がよく行われる。これはかなり昔からで、理由は、この辺りはビジネス街なので、週末になると街中がガランとして極端に人が少なくなるから撮影が行われやすいのだと思う。事実、有名な俳優さんたちが撮影していてもギャラリーはいつも少ない。
2009年の話になるが、撮影が行われているところにたまたま通りかかったので見ていた。
「アイシテル~海容~」というドラマの最終撮影らしい。
普通なら少し見て通り過ぎるのだが、自分自身毎週楽しみに観ていたドラマだったのでじっくり見てみることにした。
ストーリーは、11歳の小学生とさらに年下の男の子が遊んいる最中にちょっとしたトラブルで小さな男の子が亡くなってしまい、少年たちは加害者と被害者という形になってしまう。
彼らの家族はどちらも中流のごく普通の人たちだ。いずれの家族も日常が一変してしまい、毎日が苦悩に包まれてしまうという不運で悲しいストーリーだ。
こういう事件の場合、加害者と被害者の家族は直接面会することは許されず、お役所の担当者を通して、手紙を交換することしか許されない。手紙の内容もチェックされ、OKのものしか相手家族に渡されない。担当者は家族同士が恨み合ったりしないように配慮したり、家族のメンタル面もフォローするのが仕事だ。したがって、家族同士は相手方の名前も顔も知らない。
ラスト・シーンは、2車線道路でもある美しい建築の橋の両側にある歩道で家族同士がたまたますれ違う。どちらの家族も前向きに生きていこうとするメッセージが込められているとても良いシーンだ。家族が橋ですれ違う場面を、でっかいクレーン車に乗ったカメラでずっと空に引いていく撮影だ。ドラマの1シーンの撮影は何度も何度も行われる。いつになったらOKになるんだろうと感じるくらいだ。
で、ようやく「OK!」になったとき、マイクでスタッフから「オールアップでーす!」という声が聞こえる。撮影全て完了です!という意味なのだろう。スタッフ全員から歓声と拍手が沸き起こる。
俳優さんたちの挨拶
俳優さんたちも含めスタッフ全員が川岸に集まって、主人公役の稲森いずみさんを始めとして俳優さんたちの挨拶が始まった。こういうのは僕も初めて見た。まだ議員になる前の山本太郎さんや、佐野史郎さん、板谷由夏さん、川島海荷ちゃん、さらに11歳の少年役の子までもが挨拶した。当然これは関係者内でのイベントであって、僕ら野次馬に対する挨拶とかではない。それでも俳優さんたちのそれぞれの想いが語られて僕も感動してしまった。
11歳の少年役の子は、テレビで見るのと違い、生で見るとすごく小さい。顔は女の子のように綺麗な美少年だ。
記念撮影
挨拶が終わると、スタッフ全員による集合写真を撮ることになった。4段になって並んで座った。
僕も撮ってほしかったので、まぎれこんだ。1段目は当然、主人公の稲森さんを中心に他の俳優さんたち、そのほか、監督さんとかスタッフの中でも偉い人たちが座った。少年の横は少し空いていて、僕はそこに座りたかったが、それはさすがにおこがましいので、2段目で美少年の後ろの席をゲット。
そうすると、監督さんだかもじゃもじゃ頭の偉そうな感じの男性が「あんたたちもこっちに来て、一緒に写りなさい」と手招きをしている。手招きをされた40歳くらいの男性は「私はいいです」と遠慮気味に断っている。当たり前だ。関係者でもないのに写る必要などないわ。と、自分のことは忘れてそう思った。
それでも、もじゃもじゃが「いいから入りなさい!」と言うので、男性は仕方なくこっちに来た。
僕が超絶に驚いたのはそのときだ。男性はこちらにきて、すっと少年の横に座った。なんのためらいもなしに・・・。信じられない。僕が遠慮して座らなかった少年の隣に。
さらに、僕が我を忘れてしまう出来事が続いて発生した。男性は少年の肩にそっと手をおいた。「えぇ?なんや!?こいつは!あつかましいにも程があるやろ!?」と一瞬にしてそう思ってしまった僕は男性の肩をポンポンと叩いて一言、言いそうになった。「ちょいちょい、なんであなたが少年の横に座るんですか?ド厚かましい。他に座ってもらえますか?」と。
その瞬間、またしても驚愕した。少年の手が男性の腰にまわったのだ。
そのとき僕はすべてを理解した。
実のお父様
あ~あ~、そうね、そうだ!少年の本当のお父様だったのですね~w いやいやいやいや、知ってた、うん、知ってた(知らない)、そりゃ当然、少年の横でお写真にお写りくださいね~(^^)少年いうか息子さんですわな。わはははは。
一人で笑うしかなかった。
お父さんの肩を叩きそうになった僕の手は行先を失って無意味に宙を舞って元の位置に戻った。
危ない。危なかった!もう少しで美少年の実のお父様にクレームしてしまうところだった。そこをどけと。
しかし、ぎりぎりセーフ!セーフだ!
悪い夢から目が覚めて「あ~夢で良かった~」という感じに似ている。ぎりぎりセーフ感が似ている。良かった良かった。
事無きを得て
というわけで、事無きを得て、みんなが並んだところでカメラマンから説明があった。
「じゃ撮りますねー!『せーの!』って言いますから皆さん笑顔で『アイシテルー!』って言ってくださいねー!じゃいきますよー」
「せーの!!」
「アイシテルー!!!!」
パシャ
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